……まで秒読み

純粋性挫折日記

これからは日記を書きます

忘れた記憶

SVを担当してくれたカウンセラーから「過去のことを整理してみるといいかもね」と言われた。

私はずっと精神分析に懐疑的で来たけど、最近そこまで嫌うようなものでもないかと思うようになってきていたから、同意した。無意識に触ることで、なにか私が変化するのであれば、魔法のようで素敵だと思う。

過去の記憶に乏しい。私の人生は右に進めば左から消えていきもう決して戻ることのできない横スクロールアクションみたい。

多分あまり覚えておきたいような出来事がないのだと思う。

嬉しかった思い出で、今でも思い出せるのは、小学校6年の頃、クラスに密かに好きだった女の子がいたこと。初恋だったこと。その子と話せるだけで幸せだったこと。その年の修学旅行で肝試しがあって、くじ引きで決まった男女がペアになって手を繋いで歩いて回ることになったこと。そのとき一生懸命祈っていたら、本当にその子とペアになったこと。肝試しで歩いた林道で心臓がバクバク言ってたこと。でも後ろからくるペアがクラスのお調子者で、CMソングを高らかに歌い上げるので雰囲気はぶち壊しだったこと。でもそれでかえってホッとしたこと。戻ってきてから部屋でやった枕投げ大会は夢見心地でなんだかよく覚えていないこと。

私の恋愛経験はそこで終わりになって、あとは超自我に支配された日々がはじまるわけで、だからこの思い出は今の私には関係ないかもしれない。でも大切な思い出だから忘れない。初恋の、別に告白したわけでもなく一方的に好きで、それを隠したまま手を握ったことを成人を過ぎて何年もずっと覚えているのはきしょい気もするけど、どうなんだろうか。その辺の感覚が私には欠落している気がする。

 

じゃあ覚えておきたくない記憶はというと結構多い。全部抑圧しておいてくれと思うけど、断片的に検問をかいくぐって前意識の世界に侵入してきている。

小学校の最初の年の冬。縄跳びが盛んな学校だった、縄跳び開きの日に、靴を隠された。みんなが人生初の縄跳びに挑戦している時間、私は靴を探して途方にくれていた。どこかで私の知らない"ルール"が動き始めていた。得体のしれない心細さを、なにかが"削られているような感じ"を、感じていたはずだ。靴は結局下駄箱わきのゴミ箱から見つかった。犯人は誰だったのだろうか。先生は見つけようとしてくれていたのだろうか。下駄箱で途方にくれて泣いていた私の姿を斜め上の方から眺めている記憶だけが残っている。今こうして書き起こしながら、私はそのとき誰かが一緒になって靴を探してくれていたのではないかと思い出す。誰だったのだろうか。私の身長はずっとクラスで前から2番目か3番目だった。一緒に探してくれる友達なんていたんだろうか。思い出しながら、あまりにも彼が可愛そうだから作り出したのだろうか。

辛い思い出ばかり思い出せる。
食卓で牛乳をこぼしたとき父から全部舐めてきれいにしろと言われたのは何歳の頃だっただろうか。父が怒って私を冬のベランダに追い出したのは、私が何をしたせいだっただろうか。自分で食べたいといったあんこう鍋を残したせいでお尻を何回も叩かれたことは死ぬまで忘れない。父が激怒して土下座をしろと言われた屈辱も。中学校の頃、待合わせに遅れた友人にキレて私は父と同じように「土下座をしろ」と命令した。以降疎遠になって今でも会うたびに気まずい。抑圧しておいて欲しかった記憶なのに、はっきりと思い出せる。

小学校2年のとき、体操着袋がなくなって、結局校庭のすみのプール脇で砂にまみれて見つかった。と報告した。あれは結局違うところにあったのだけど、それを言い出せなくてプール脇で見つけたことにした。ほんとうはどこにあったんだろう。うっかり自分のロッカーに置き忘れていたのかもしれない。なんでこの記憶を今も覚えているんだろう。

小2のとき、野球でホームランとは四塁打のことだと言い張って、登校班のみんなに勘違いを指摘された。私は父から聞いたと思っていたが、実際はランニングホームランの説明と混ざっていたのだと思う。意地を張って言い張ったせいで、クラスから村八分にされた、と記憶しているけど、実際は別の理由があったのだろうと思う。その頃、私が公園に行くたびにみんながつれだってどこかに移動してしまって、私はみんながどこにいるか探して回って、クラスメイトの家のチャイムを押して回った。いざみんながいる家を見つけ出したとき、奥からすごく嫌そうな声が聞こえてきたのを覚えている、気がする。その頃から小5まで私には友達がいなかったと思う。

小3と小4の記憶はない。
ノロウイルスで運動会を休んだことだけ。
日々何をしていたのだろう、友達のいない放課後を。

小5で勇気を出して一緒に遊びたいとクラスの男子に伝えて、一緒に遊ぶようになった。友達ができた。なあんだ、って感じだった。私はみんなにライトノベルを布教して回っていた。又貸しで揉めたりしていた。みんなに貸そうと思って十数冊のライトノベルをランドセルに入れて登校していた。スマブラが流行っていたけど、ゲームを買ってもらえない家庭だった私は操作法もわからず、ずっと見ている役だった。マリオカートポケダンポケモンもモンハンも全部見ている役だった。5年生で転校してきたお調子者のクラスメイトの家が近くて、そこそこ友だちにもなれて、家に呼ばれて一緒にやったボンバーマンがとても楽しかった。その日の帰り道は、誰かが私の靴を間違えて履いて帰ってしまったと勘違いして裸足で帰った。

小6の頃、学年の不良児が体育の授業のとき、私を囲んでプニョプニョお腹だと私のお腹をつついて笑っていたことを覚えている。ずっと水泳してたから太ってるわけないのになと思ったけど言い返せなくて涙が出た。

そいつは中学に行っても同じ学校で、なにか色々された気がするけどなにも思い出せない。上履きや教科書になにかされるのを恐れて、私は毎日全部の持ち物を持って帰るようになってすごく重い思いをしたことだけ覚えている。

中2の一時期、そいつらに下校のたびに階段の最上段から突き落とされてたけど、うまく着地できて大丈夫だよ〜すごいだろ〜みたいなふうを装っていたのを覚えている。私は一緒に帰ってくれる人もなくて、帰り道1人でずっと自分はいじめられていない、惨めじゃないと考え続けていたのを覚えてる。中3で、数学が能力ごとにクラスが分かれていたのだけど、他の教室から戻ってきたときに自分の机のうえにうっすら「死ね」と掘られていたのを、知られたくなく擦って消そうとした。結局バレず、それ以降続くこともなかったので偶然だったのかもしれない。

中学のころ廊下を向こうから走ってくる女子にとっさに足をかけて転ばせ怪我をさせた。本当に、嫌いとかそういうのじゃなかったのに。今でも後悔している。彼女は覚えているだろうか。なんで足なんて出してしまったんだろう。彼女はどう思っているのだろうか。

中学のころ密かに好きだった(かもしれない)女子から同じ生徒会のよしみとしてバレンタインデーにチョコをもらったけど、手作りの食べ物を食べられない潔癖なところが当時あったせいで学校の近くの茂みにこっそり捨てた。申し訳ないなと今でも思う。相手は渡したことさえ覚えていないだろうけど。

中高一貫の高校に途中から入学した。9割が持ち上がりの学校で、友達を作ろうと焦っていたら後ろの席の2人が「友達って作ろうとして作るものじゃなくて、自然にできるものだよな」って話してたのを覚えてる。

高校の頃はなんかけっこう陰口を言われていた気がするけど、なにも思い出せない。

山を登りながらクラスメイトの悪口を言う部員に耐えられずワンゲル部を半年でやめた。

記憶には嫌なことばかり残っている。

書き出してみると、虐められていたかもと思う。でも虐められていたかを判断出来るほどの材料は記憶に残ってない。そのときの気持ちも。

思い出そうとすれば、私にも明るい記憶がもっとあるはずなのに。

小学校の最初の年、初めての友人ができた。彼は背が高くてちょっと変なやつだった。ある休み時間、ぼくたち2人はクラスメイトと混ざって遊ぼうとはしなかった。2人で校庭の隅にある焼却炉の陰に立ってなにかを話していた。休み時間の校庭の喧騒をそこから2人して眺めていた。
彼はいつの間にか転校してしまった。彼の転校を知ったときの記憶も、思い出すことができない。

 

 

記憶をたどり思い出しながら書き留めたことで、今の私はなにか変わるだろうか?

思い出して解釈したことで、必死に生きていた記憶の中の過去の私を私は殺してしまったような気がする。